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監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters)

今回は、20213月決算より導入された、「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters)」(以下「KAM」という。)について、「のれん」や「無形資産」を中心にコメントしたいと思います。

1.KAMとは?

KAMについての定義は、様々なところで記載されておりますが、公益社団法人日本監査役協会の「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」によれば、以下の通りです。

  • 「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項」であり、
  • 会計監査人の監査報告書への記載が義務付けられることになったもの

  KAMは監査報告書において、以下の3つ項目について個々のKAMごとに記載されます。

  1. KAMの内容

  2. 当該事項をKAMであると判断した理由

  3. 当該事項に対する監査上の対応

  KAMは、あくまで監査のプロセスに関する情報提供であり、監査人の監査意見ではないというのがポイントかと思います。

2.KAMの事例分析

Q  何社が、KAMを記載しているのか?

  • 弊社調べによれば、2021713日時点で3月決算の上場企業は2,341あります。このうちKAMを記載している会社は2,224社で、全体のおよそ95%程度の水準です。上場会社のほとんどの会社に対して、KAMが記載されていることになります。

Q  3月決算の2,341社のうち、M&A関係のKAMはどのくらいあるのでしょうか?

  • 2,341社のうち、弊社で「企業結合」、「のれん」、「無形資産」の3つのキーワードをもとに抽出した結果、342社(全体15%程度)がM&Aについて記載がありました。この集計結果は、「固定資産の減損」を除く社数であり、固定資産の減損を加えるとかなりの会社が「のれん」、無形資産を含む固定資産に対してKAMを記載していることがわかります。

Q M&Aに関するKAMを記載した342社は、どのようなことを書いているのか?

 

  • 342社について、約87%「のれん」をKAMとして記載している結果となりました。
  • 「のれん」は、不確実性が高い資産であることから、監査の重要検討事項としてあげられているのがわかります。
  • また、企業結合時に求められる「無形資産」については、「のれん」に比べると低く、約15%程度の水準となりました。

     

  • 一方で、KAMとして挙げられている「のれん」と「無形資産」について、4大監査法人とそれ以外の監査法人で比較してみると、4大監査法人以外の監査法人については、無形資産をKAMとして挙げている割合が低いことがわかりました。

Q 無形資産に対して、会計監査人はどのような監査手続をしているのか?

  • 無形資産に対する一般的な監査手続については、経営者の質問、事業計画のレビュー、契約書や取締役会議事録の閲覧のほか、4大監査法人ではグループ会社内にM&A専門部署があるため、ほとんどが内部の専門家を利用しています。
  • 無形資産については、無形資産評価固有の専門的な知識やノウハウ、相場観があるため、監査チームとグループ内の内部専門家が一緒になって、監査に当たるケースが多いと思います。無形資産の特色に応じて監査手続きも異なるため、今後のブログで解説していきたいと思います。

3.今後の傾向

  • KAMの導入により、投資家や株主側では、監査手続の見える化による比較可能性や監査の透明性の向上が期待されております。
  • 一方で、監査人側では、投資家や株主側への説明責任が求められるため、監査役等及び執行側との相互のより一層のコミュニケーションの強化や専門家を利用するなどの監査の品質向上が求められることになると考えます。
  • 特に、「のれん」については、「「のれん」のままでいいのか? 「無形資産」として認識する必要はないのか?」について、より一層、経営者及び監査人双方とも説明責任が求められることでしょう。

4.最後に、監査法人の皆様へ

  • 「2.KAMの事例分析」でも触れましたが、M&Aは個別性が強いため、案件ごとに無形資産を認識するかどうかを検討するため、一概には言えない部分もございますが、「「無形資産」を認識しKAMとして記載すること」については4大監査法人と4大監査法人以外では、監査の体制面も含め、まだまだ温度差があるのではないかと考えております。
  • 弊社では、監査法人向けに「専門家の業務の利用」の一環として、例えば以下のようなレビュー業務を提供しております。

レビュー業務

  1. 無形資産算定報告書を閲覧し、会社が認識した無形資産について質問
  2.   会社や無形資産算定報告書を作成した専門家に対して、計算方法の質問
  3. 貴監査法人向けにレビューコメントを作成
  • そのほか、監査法人のクライアント向けに、株式価値評価や無形資産評価、減損テストや割引率の推計などの業務提供も可能です。ご不明な点はお問い合わせください。