EBITDAとは?

EBITDAの概要とEBITDA調整の必要性

企業価値評価で使用する指標には、様々な損益系の財務指標があります。

なかでも実務上、EBITDAが重宝されていますが各種の収益系の指標のうち、「キャッシュを獲得する力」に最も近い指標であるからです。

「キャッシュを獲得する力」を用いて企業の収益性を測ることで、会社や国ごとで異なる会計基準や会計方針、金利水準、法人税率差異等の影響を除外して収益性を比較分析・検討することが可能になります。そのため、企業価値評価や企業の基礎的な財務分析などの場面で、正常収益力としてEBITDAが広く利用されています。

EBITDAはきわめて単純な計算式ですが、複数期間のEBITDAを比較する上では、一時的/非経常的な取引による損益の変動、事業の撤退改廃、M&Aの実施等によってEBITDAの金額が大きく増減する場合があるため、単純に比較検討できないことがあります。

そのため、単純計算したEBITDAに、「EBITDA調整」と呼ばれる特定の取引事象などの加減算調整を行うことで、その時点における当該企業の正常収益力としてのEBITDAを算出します。

EBITDA調整の種類

本項では、EBITDA調整の代表的な一部の事例を記載します。これらの調整を行うことで、企業の正常収益力を測ることに繋がります。

一時的/非経常的な損益の除外

EBITDA調整は、EBITDAを複数期間で比較することを目的に行われます。

過去の事業年度で発生した一時的/非経常的な損益は比較可能性を損なう可能性があるため、除外する必要があります。なお、除外するためには、除外対象の営業損益を算出し、EBITDAから控除することが一般的です。

一時的 / 非経常的な損益という定義のため、該当の可否につき判断に迷うような損益もあると思いますが、金額的重要性を勘案して該当の有無を検討してもよいでしょう。

事業撤退・M&Aによる影響・買収対象外事業の除外

EBITDAを期間比較する観点からは、事業撤退・M&Aによる影響・買収対象外事業などの損益影響をEBITDAから除外することが重要です。

例えば、事業撤退であれば、当期の途中で損益影響の大きい事業から撤退したのであれば、当期首から撤退時までの損益、過年度における当該事業から生じた損益をEBITDAから控除するなどの調整が必要となります。

EBITDA調整が企業価値評価に与える影響

EBITDA調整は企業の正常収益力を把握すると共に、複数期間におけるEBITDAの比較可能性を高めるため、事業計画作成や分析の発射台となります。

例えば、ある一時的な取引により多額の利益が直近年度で計上されていた場合、この一時的な取引を含んだEBITDAを事業計画作成や分析の基礎数値にしてしまうと、事業計画の損益・EBITDAは実態より多額になる可能性があります。過去数期間のEBITDA分析を実施し、EBITDA調整の仕組みを理解しておかないと、事業計画値の問題点に気づけない可能性もあります。
EBITDA調整を適切に行うことで、正常収益力をベースとした企業のキャッシュを獲得する力を測ることができるため、適切な事業計画の作成や分析に寄与します。

類似会社比較法に基づく企業価値評価においても、EBITDAを用いる事例は多くあります。
実績EBITDAや正常収益力としての調整後EBITDA、進行期や翌期予想などのEBITDAなど、EBITDAの概念は分析の内容や時間軸に応じて複数存在します。
企業価値評価の実務上多く用いられるのは予想EBITDAですが、調整後のEBITDAを基礎に検討した方がよいでしょう。

最後に

EBITDA調整は、対象企業/事業の正常収益力を把握するために重要な役割を果たし、M&Aの検討の際には欠かせない事項です。類似会社比較法のみならず、DCF法で使用する事業計画にも影響を及ぼすからです。

本記事で紹介したEBITDA調整項目は、比較的多く見受けられる実例のみとしており、ほんの一部にすぎません。紹介した調整項目以外にも、事業実態に応じて調整事項を検討しないと分析結果を歪めることにもなりかねません。M&Aや財務分析の経験豊富な専門家にも相談しつつ、検討した方が良い領域と思料しています。