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DCF法に用いられる割引率

DCF法を利用する際、割引率の水準によってバリュエーションの結果は大きく変動します。今回はDCF法における割引率について、一般的な計算方法からスタートアップ企業を評価する際に採用される割引率など、最新の実務を解説していきます。

DCF法とは

DCF法とは、「Discounted Cash Flow」法の略で、企業価値評価方法の一つです。

対象企業が生みだす将来キャッシュフローの合計を現在価値に割引計算することで企業価値を算定することができます。

企業価値評価方法はDCF法の他に、マルチプル法、修正簿価純資産法などが挙げられますが、その中でもDCF法は理論的な計算方法と言われており、M&A実務でもよく採用される手法です。

WACC(加重平均資本コスト)とは

DCF法を利用する際に多く用いられる割引率はWACC(Weighted Average Cost of Capital)であり、加重平均資本コストのことです。負債資本コストと株主資本コストを加重平均することで計算されますが、具体的な計算式は以下のとおりです。

WACC = 株主資本コスト ×(株主資本 ÷(株主資本+負債))+ 負債コスト ×(1-実効税率)×(負債 ÷(株主資本+負債))

負債による資金調達が想定されない場合には、株主資本コスト=WACCとなります。

株主資本コストの計算方法

株主資本コストとは、対象企業が株主資本で資金調達する際に、株主が要求する期待利回りのことです。
株主資本コストはCAPM(Capital Asset Pricing Model)と呼ばれる以下の計算式で計算されます。

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ(β)× マーケットリスクプレミアム+固有のリスクプレミアム 

リスクフリーレートは10年国債利回り、マーケットリスクプレミアムはTOPIXの期待利回りなどからの統計値を採用することも多く見られます。βは類似上場企業のβを参考にするなどの方法で推計することが一般的です。固有のリスクプレミアムは、会社固有のリスク、対象会社の企業規模に応じたサイズリスクプレミアムなどが実務上用いられます。

例えば、10年国債利回り0.25%、βを1.2、マーケットリスクプレミアムを6.0%、固有のリスクプレミアムを4.0%とした時、株主資本コストは以下のように計算されます。

株主資本コスト = 0.2% +(1.2 × 6.0%)+ 4.0% = 11.4%

スタートアップ企業に対してDCF法を採用する際の課題

スタートアップ企業は通常の成熟した企業よりも高い利回りを求められることが多くあります。そして、上場できるスタートアップは一握りであり、成功確率は低くなります。

CAPMで株主資本コストを計算することが経済実態に即さない場合、諸説ありますが、下記のようにスタートアップのステージごとにおおよその割引率を定めることも考えられます。

  • 50%~70%:事業アイディアのみの段階
  • 40%~60%:創業間もない企業
  • 35%~50%:急成長期・拡大期の企業
  • 25%~30%:上場準備企業

経営者へのインタビューや財務状況などを総合的に鑑み、対象企業の成長ステージを判断し、割引率を決定します。

バリュエーションの実務において、割引率は一つの数字に決まるものではなく、レンジ設定することが通常です。例えば、割引率を25%~30%でのレンジ設定とすれば、それに対応してバリュエーション結果(株価や価値)も●円~●円のようにレンジで表現されます。

割引率がバリュエーションに与える影響

割引率は、バリュエーション結果に大きな影響を及ぼします。特に、スタートアップ企業で高い割引率を採用する場合には、その影響が大きくなります。

DCF法では、対象企業が作成した事業計画などに基づいて将来キャッシュフロー計算しますが、事業計画期間後のキャッシュフローは一括して、「継続価値」として計算します。

継続価値(永久成長率法)は、下記の計算式を用います。

継続価値 = 事業計画最終年度の翌年のフリーキャッシュフロー ÷(割引率 - 永久成長率)

永久成長率は、リスクフリーレートやインフレ率などを参考にすることも多く、近年の日本企業の評価では、0.0%~1.0%程度を付す事例が多いものと推察しています。

最終年度のフリーキャッシュフローを1億円、永久成長率を0.0%とした場合、継続価値は以下のように計算されます。

割引率 10%を用いた継続価値 = 1億円 ÷ 10% = 10億円

割引率 50%を用いた継続価値 = 1億円 ÷ 50% = 2億円

割引率が、継続価値に大きな影響が与えることが分かります。

継続価値計算は永久成長率法以外にも、(EXIT)マルチプル法も実務上用いられており、対象会社の事業計画期間後の状況等に応じて最適な計算方法を選択することになります。
割引率と永久成長率という2つのパラメータが、倍率という1つのパラメータに集約されていることが背景にあると考えますが、双方の計算結果が一致する実例は少なく、概ね排他的な選択になると感じています。

留意点

DCF法でバリュエーションを実施する際に、留意すべき点は以下です。

  1. 事業計画の土台となる財務諸表の正しさ
  2. 事業計画の実行可能性
  3. 割引率の妥当性

DCF法は、主に対象企業の事業計画と割引率によって計算されますが、事業計画の妥当性はそもそも過年度・直近の財務諸表が適切に作成されていなければ、検証困難です。そのため、M&A時に実施する財務デューデリジェンス(FDD)において、事業計画の基礎数字を含めて適切に情報収集、検討することが大切です。

そのうえで、経営者インタビューや市場動向等を鑑み、対象会社の事業計画の妥当性を検討していくことになります。
対象会社が作成した事業計画が楽観的と言わざるを得ない場合には、事業計画を下方修正する、または割引率にリスクを付加する(=割引率を高める)調整などの検討に入ります。

特に、スタートアップ企業が作成する事業計画は楽観的なものも混在しており、様々な角度からリスクを洗い出し、割引計算を行っていく必要があります。

まとめ

DCF法のバリュエーション結果は、割引率次第で大きく変動します。

スタートアップ企業などのようにリスクが高い、株主からの期待利回りが高い企業は、高い割引率を採用することが多くあります。対象企業の状況、市況動向、リスク事項など様々な要素を鑑み、慎重に割引率を決定することが重要です。

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