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IFRS16号の適用が類似会社比較法等に与える影響

①企業価値の評価手法

企業価値評価には、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3アプローチがあり、このうちマーケットアプローチには、評価対象会社と事業内容等が類似する企業(類似会社)の市場株価と財務情報との比率を参考とする類似会社比較法、評価対象会社と事業内容等が類似する取引(類似取引)の取引価格と財務情報との比率を参考とする類似取引比較法があります。

②類似取引比較法等の種類

類似会社比較法及び類似取引比較法(以下、「類似会社比較法等」)には、採用する財務情報に応じて、売上高倍率(事業価値÷売上高)、EBITDA倍率(事業価値÷EBITDA)、EBIT倍率(事業価値÷EBIT(営業利益))、PER倍率(時価総額÷当期純利益)及びPBR倍率(時価総額÷純資産)などの手法があります。

③EBITDA倍率の優位性

M&Aの際にはEBITDA倍率が採用することが多いと思われます。その根拠としては、EBITDAは企業が生み出すキャッシュフローの代理変数と考えられていることに加えて、償却費に関する会計基準の影響を受けないため、企業価値に影響を与えるべきではない会計基準差というノイズを排除することができるというメリットも考えられます。

例えば、EBIT倍率を採用した場合、IFRSを採用している企業はのれんの償却を行わないため、他の条件が同一の日本基準を採用している企業と比較すると、EBIT倍率は小さくなりますが、EBITDAでみると、両者に差異は生じません(のれん償却費以外の会計基準差もあることが想定されますが、ここでは無視しています)。

④IFRS16号の適用がEBITDA倍率に与える影響

IFRS16号リースが201911日以降開始事業年度から適用されることとなり、風向きが変わりそうです。というのもIFRS16号が適用されることにより、IFRS適用会社は、従来オフバランス処理をしてきたリース契約について、オンバランス処理が求められ、その結果、償却費やリース負債の金額が変動し、IFRS16号の適用前後でEBITDA倍率が変動します。具体的な数値を使用すると以下の通りで、IFRS16号の適用前後でEBITDA倍率が変動してしまいます。

 

前提条件:売上高は1,000、毎年の支払リース料は200、想定リース期間は5年、使用権資産(リース負債)は900、適用初年度の支払利息は20、時価総額は5,000

 

適用前

適用後

売上高

1,000

1,000

リース料

200

-

償却費[1]

-

180

支払利息[2]

-

20

利益[3]

800

800

EBITDA[4]=[1]+[2]+[3]

800

1,000

時価総額[5]

5,000

5,000

リース負債[6]

-

900

事業価値[7]=[5]+[6]

5,000

5,900

EBITDA倍率[7]/[4])

6.25x

5.90x

⑤まとめ

EBITDA倍率を使用してもIFRSと日本基準の採用会社で会計基準差が出てくることになり、業種よってはそのインパクトは無視できない大きさとなると思われます。しかも会計基準の対象とするリース契約(賃借契約)の範囲がIFRSと日本基準で異なるため、単純に日本基準におけるオペレーティングリース部分をオンバランスすれば会計基準差が埋まるわけではなく、開示情報のみでは両会計基準における差異は調整できないものと思われます。

ただし、IFRS16号の適用後も類似会社比較法等におけるEBITDA倍率の優位性がすべて失われるわけではないため、今後も採用され続けるケースが多いと思いますが、EBITDA倍率を用いて価値評価を実施する際には、会計基準の影響によって、EBITDA倍率に歪みが発生しないよう、今まで以上に会計基準差の与える影響を念頭に置くことが求められることになりそうです。