M&Aプロセスにおけるバリュエーションの利用場面

バリュエーションを利用する場面について、弊社の業務区分としては、下記の図のように①から⑥に大別しています。
順を追って依頼主の目的や弊社の視点を簡単に記載します。




① 買収候補先の価値試算

M&Aに関連するバリュエーションの中では、最も早い段階で実施されます。
上場企業ともなると、相当数の案件を持ち込まれることも多く、優先順序や取り組むべき案件の選定が必要となります。買収候補先の価値試算では、インフォメーションメモランダム(IM)や一定の限定的な情報のみを使用するなど、対象企業へのアクセスを限定された状況で実施されることもあります。

ここでは、早期に買収価格の目処をつけることが目的です。また、買収先に関する論点が明確化することもあり、初期的な価格提示のみならず、財務・法務デューデリジェンス(DD)のスコープにも影響を与えることもあります。

② 第三者機関による価値算定

続いては、買収価格を決定するに際して、経営意思決定に資する情報提供をすることが目的のバリュエーション業務です。「①買収候補先の価値試算」結果を受け、基本合意(LOI)を締結した後などに実施されます。

バリュエーションの実施に際しては、財務・税務・法務・ビジネスなどの各DDの結果を受け、最終的な条件・買収価格決定の基礎資料として利用されます。

③ Pre (プレ) PPA

無形資産が生じるM&Aについては、のれんと無形資産の双方の償却を負担しますが、その償却期間が異なる可能性や、無形資産については繰延税金負債の計上によりのれんの額にも影響を与えたりします。そこで、事前に償却負担を検討したいという相談を受けて、M&A後に実施される本格的なPPAとは区分して、限定的な情報を使用した(状況に応じては更に簡略化した)PPAを「Pre PPA」と称して実施することがあります。

M&A実施前につき、入手できる情報には限界があることが多くあります。そこで、以下の2つの方法から選択することもあります。

  1. 類似事例等からの分析
  2. 対象会社に関して入手できている情報からの概算値による分析

実務上は、情報量のみならず依頼主からの要望や条件等に応じて内容を選択していきます。

④ 無形資産の公正価値算定

一般的に、PPAは④無形資産と⑤有形資産の公正価値算定の両方を意味しています。
Pre PPAが実施された場合には、追加情報を入手して精緻化することになりますが、クロージングBSやその他入手可能となった対象会社の詳細な情報を使用して無形資産の価値を評価します。

M&A業務に関連するバリュエーション業務のなかでも、会計処理に直接的な影響を与えることから、会計監査の対象となることもあり、会計監査人が登用する無形資産価値評価の専門家が登場して、当社に対して無形資産価値評価に関する質問状を送付してくることも多くあります。

⑤ 有形資産の公正価値算定

有形資産の公正価値算定は、主に、機械などの有形固定資産を有している企業を買収した際に要請されます。取得資産について、時価で計上することが必要なためです。有形資産の評価結果については、無形資産の公正価値算定プロセスにも影響を与えることに留意する必要があります。
有形資産の公正価値も無形資産と同様に会計監査の対象となり、会計監査人が登用する有形資産価値評価の専門家が登場することがあります。

なお、土地・建物などの不動産については、不動産鑑定評価が利用されます。

⑥ 減損テスト

M&Aから生じたのれんなどが毀損している可能性があると、減損会計適用の検討が求められます。
日本基準と国際財務報告基準(IFRS)では、その内容が異なりますが、バリュエーション的な思考を基礎としている点は概ね共通しているものと思っています。減損テストでは、評価対象が創出するキャッシュフロー(CF)と事業に応じた割引率などの情報を用います。
減損テストの実務的対応は各社異なるようですが、リスクや状況によって以下から選択していると思います。
当社も、当社自らが価値評価業務を全て実施するのみならず、減損テストの内製化を支援することもあります。

  1. 減損テスト対象の価値評価全般を外部の評価専門家に依頼して、会計監査人対応も含めて実施する。
  2. 割引率の算出のみを依頼(CFの計算と価値評価は自社内で対応)する。
  3. すべて自社対応する。