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バリュエーションから見る企業価値の向上

バリュエーションの必要性

バリュエーションの必要性とは、バリュエーションレポートの必要性と同義と理解しています。すなわち、価値算定報告書が必要とされる場面であり、一定の意思決定の際に、その意思決定が適切であるか否かの判断材料として求められるような状況です。

社内のM&A担当者が自身の価値観をもって算出した価値には、恣意性が入る懸念があることや、専門性の高い分野につき、計算やロジックの誤りがあると、買収等の意思決定そのものを誤ってしまうおそれがあります。

したがって、外部の専門家より価値算定報告書を入手することで、価値の客観性、価値計算の妥当性を担保することが可能になると考えられます。 

 

昨今は、価値評価報告書の取得の有無やその内容の是非までも内部統制監査や会計監査の一環として検証することもあります。

バリュエーションの手法

バリュエーション(企業価値評価)の手法としては、DCF法や類似会社比較法(マルチプル法)などが挙げられます。当社の価値評価でも多く採用する手法ですが、評価対象やその目的等に応じて、適切な評価手法を選定する必要があります。

企業価値評価と言うとDCF法がメジャーですが、すべての価値評価案件にDCF法を採用することはありません。モノの長さを計る定規にも、さまざまな種類があるのと同様に、最適な価値を計る定規も選択する必要があります。使用する定規を誤ると、長さを分度器で測るようなミスマッチが生じると事態となります。

DCF法の基礎概念

代表的な企業価値評価手法としては、DCF法が挙げられます。

DCF法は、フリーキャッシュフロー(FCF)を割引率、成長率などの計算要素から算出される事業価値に、事業外資産や有利子負債等を加減算して株式価値などを算出する手法であることはご理解頂いていると思います。

ここで、FCFは将来獲得できる見込みのFCFを使うことが重要です。すなわち、今現在、全く同じ財務内容の2社を仮定したときに、将来FCFが異なる2社のどちらを高く買うか?という問題を解決するためです。

また、将来FCFを割引く際の割引率は、将来FCFと整合して考える必要があります。割引率には、加重平均資本コスト(WACC)を用いることが多くありますが、本来は、将来FCFを割引くための将来割引率として、適切なリスクとリターンを反映する必要があります。FCFと割引率の関係性については、新興国に所在する企業を評価することでそのイメージが沸くのではないかと思います。すなわち、新興国に所在する成長著しいと予想される企業を評価するに際しては、強気な将来FCFを使いつつも、高いカントリーリスク等を織り込んだ割引率を使用すべきということです。

企業価値の向上とは

昨今の企業トップの訓示やコーポレートガバナンスコードの観点から、自社の企業価値の向上を述べる経営者が多くいらっしゃいます。「企業価値の向上」には複数の意味が込められていると思いますが、特に上場企業であれば、自社の市場株価の上昇も含んでいると推察しています。

また、バリュエーションの視点から企業価値の向上を考えると、類似会社比較法やDCF法の視点からの企業価値の向上を検討することは、何かしらの事案により、自社が評価対象会社となったときには大きな意味を持つのかもしれません。

DCF法と類似会社比較法では算出された価値の意味合いが異なることは先に述べた通りですが、一定の相関関係は有しています(類似会社比較法で有用な企業価値の増加方法がDCF法では価値を下落させる方法となる可能性は極めて低いという推察)。

DCF法を例にとると、以下の構成要素に分析され、将来FCFの増大と割引率の低減がDCF法的な視点での企業価値の向上に寄与することとなります。

 

  • FCFからは、今後の効率的な設備投資による利益の増加や、特に増収時の運転資本の圧縮、中長期的な経営計画の公表等が挙げられます。
  • 割引率からは、企業規模の拡大、経営の安定性、有利子負債の有効活用を含む適切な資本構成の構築などが挙げられます。

DCF法で使用するFCFと割引率の個々の構成要素は、企業から外部へ発信する情報の参考になると思います。この視点から情報発信することは、ひいては企業価値向上に資するのではないかと推察しています。