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PPAの専門家は何人くらいいるのだろう?

本稿での「PPAの専門家」とは、クライアントのためにPPAを実施し、監査法人及び監査法人内のPPA専門家と折衝し、PPA案件を完了できる人材と定義しています。

なお、PPAはいわゆる株式価値評価とは異なる会計目的の価値評価業務であり、公認会計士を多数擁するような会計ファームが業務提供を行うことが多いです。証券会社もFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)業務の一環として株式価値評価を提供していますが、証券会社がFAを務めたM&A案件でもPPAは会計ファームが代わって担当します。

日本にはPPAの専門家が50人程度しか存在しない?

我が国でも昨今はM&Aが活発ですが、多額ののれんの減損など残念なトピックを耳にする機会も多くあります。それに対して、のれんなどの無形資産分析を得意とする専門家の人数は非常に少ないような印象があります。

そこで、無形資産分析を得意とするPPAの専門家の人員数を大雑把かつ主観的に推計してみたところ、50人程度と算出されました。推計方法は以下の通りですが、あくまで筆者の私見であり、現実の数値とは異なる可能性があることにご留意いただきたい。

①Big4の評価チームは各ファームで50人くらい?

筆者が在籍していた、いわゆる会計ファームとしてのBig4(PWC,EY,KPMG,Deloitte)では、M&A部門の中にある株式価値評価(Valuation)チームがPPAを担当していました。Big4の各ファームの人員数は異なるものの、各ファーム50人程度と推計してみました。

②PPAを担当するのは、各ファーム50人の半分くらい?

PPAは連結又は企業結合時の会計目的の価値評価のため、株式価値に関する知識だけでなく、連結や企業結合の会計基準の理解が求められます。また、クライアントが選択する会計基準(日本基準、IFRS、US基準)や会計監査に関する一定程度の理解が必要です。この点を考慮すると、Big4の50人程度の人員数のうちPPAを担当できる人数は、約半数程度の25人程度と推計しました。(昨今、公認会計士が会計ファームで働かない傾向を鑑みると、更に少ないかもしれない。)

③1人でPPAを遂行できるのは各ファーム10人くらい?

組織のヒエラルキー(パートナー、管理職、シニア、アナリストの構成比を1:3:3:3と仮定)を勘案し、PPAを遂行できる職位を実務経験の観点からパートナーと管理職に限定すれば、各ファームあたり上記②で算出した25人に基づくと、25人÷10人(1+3+3+3)×4人(1+3)=10人程度が算出されることになります。

④Big4だけで計算すると合計40人くらい?

Big4だけで計算すると③で推計した10人×4ファーム=40人となります。なお、Big4の監査を受けているクライアントは、監査の独立性から監査クライアントに対してはPPAを提供できないため、実質的には3ファームとなり40人÷4×3=30人とも計算できます。

⑤独立系を加えると全部で50人くらい?

最後に、Big4だけでなく、弊社のような独立系評価ファームも複数社存在するものと思います。独立系評価ファームの専門家を10人程度と見積もると、Big4在籍の40人と合計して50人程度になるものと推計しました。

PPAの専門家は思う以上に少なく、様々な事情までも考慮すると事実上の選択肢はそう多くはないと感じています。このような状況のなか、PPAについて相談や実際に発注をするに際してのポイントは以下と考えています。

1.対象会社
PPAの経験を一定程度有している専門家は、対象会社の業種や事業内容から認識する可能性がある無形資産の当てがつきます。また、複数案件を経験していれば、過去の類似事例でどのような無形資産が認識されているかに関する経験や知見を有しています。

2.報酬水準
PPAの専門家は、業務の難易度や監査人との折衝に要する手間や時間数を理解しています。したがって、極端に安い報酬水準が提示された際には、何かしら必要な対応や要素が抜け落ちている可能性があります。

3.経験年数(5年以上)
PPAはBig4 が監査を担当するような上場企業のM&A後に発生する価値評価業務ですが、会計目的の評価業務である以上、監査人との折衝が必要です。監査人との折衝においては、クライアント側の意向を重視しつつも監査人の立場も理解した上で進める必要があると思います。したがって、Big4でのPPAの主任経験を一定年数以上有している方にご相談された方が良いと思います。